パーキンソン病の新しい治療について

パーキンソン病の治療選択の一つに、定位脳手術というものがあります。今日では、脳内の特定の場所に入れた電極を皮下に埋め込んだ刺激装置につなぎ、その刺激装置を、送信機を使って体外から働かせて、電極を入れたところに電気刺激を与えるという方法です。確かに有効な方法ですが、私は内服薬に代わる治療とは考えていません。副作用などで内服薬が充分に使えなかったり、オフ状態が服薬時間に関係なく生じてしまったり、“すくみ足”が高度であり、かつ内服薬の使いかたを工夫しても、どうしてもうまくコントロールできない場合にのみ、一つの選択肢として行われてよい方法だと思っています。ただ、手術ですから、それなりのリスクはあります。全く見えない場所に電極を挿入していくのですから、その途中で血管を傷つけてしまい、脳内出血をおこすという可能性があります。手術をされる先生と充分に相談なさった上で、手術を受けられるかどうかの判断をして下さい。

最近、iPS細胞の脳内移植に関する質問をよく受けます。まだ実現していない治療法ですが、実はもう数十年前によく似た移植手術が行われ、結局失敗に終わったということがありました。この手術は今ではなされていませんが、それは人工中絶で得られた胎児の黒質神経細胞を、患者の線条体内に注入するという方法で、最初メキシコでなされ、その後米国、スウェーデン、そして中国などで行われました。人工中絶で得られた胎児の脳細胞を使うということで、最初から倫理的な問題があったのですが、それに輪をかけて、父親に移植手術を受けさせる目的で娘が妊娠するという事件が米国で起こり、大変な倫理論争になりました。また、移植手術の結果は最初は好ましいものでしたが、手術後数年で効果が失われていくと同時に、激しいジスキネジアなどを生じるという副作用が生じてくる場合があり、これに対しては全く対処法がないということで、この移植手術は失敗と判断されたのです。iPS細胞を使うならば、倫理的な問題はクリアできますが、黒質神経細胞を線条体に移植するという従来と同じ方法では、前者の轍をたどることになり兼ねません。移植の方法や、副作用が生じてきた場合の対処法などがはっきり示されない限り、安全な治療法にはならないのではないかと思われます。このような理由から、今のところは、iPS細胞を使った移植治療については、過度な期待は抱かない方が良いと思います。

岩田 誠