パーキンソン病の患者さんの日常生活で大事なのは、①すべての動作を急がずにゆっくり行うこと、②姿勢を真っ直ぐに保つこと、そして③出来る限り体を動かす生活をすることです。
パーキンソン病では動作が遅くなりますが、個々の運動は速くなってしまいます。例えば歩く時の足を下ろす速度は、健常者よりはるかに速いのです。このために歩幅が狭くなり、チョコチョコ歩きになってしまいます。ですから、歩く時には腿を挙げて、大きくゆっくりと、ものをまたぐようにして歩いて下さい。また、二つ以上の動作を同時にしないこと。例えば、座位から立ち上がって歩く出すときは、先ず“どっこいしょ”と立ち上がり、姿勢を正してから、ゆっくりと歩きだして下さい。決して立ち上がり動作が終わらないうちに歩き出すようなことはしないで下さい。また歩き出す時は、必ず大きく手を振って、のっしのっしと歩きましょう。
健常な場合には、立っている時の体の重心は、足首のあたりにありますが、前かがみの姿勢をとると、体の重心は足先に移ってしまいますので、足を挙げることが困難になってしまいます。パーキンソン病の方は、前かがみの姿勢をとることが多く、最初の一歩が出にくい“すくみ足”の原因の一つになります。足がすくんで出ないときには、一旦立ち止まって、先ず姿勢を真っ直ぐに立て直し、それから何かをまたぐように腿を高く上げて歩き始めて下さい。そのような条件が自然にそろうのは、階段を上る時です。平らなところを歩くのが不自由でも、階段はスタスタと苦も無く上がれる患者さんは、少なくありません。
パーキンソン病の患者さんにとって、長期間寝込むことは最悪です。そういった意味で恐ろしいのは、転んで脊椎や大腿骨などの骨折を生じることです。これらの骨折は、畳の上で転んでも生じ得るもので、一旦起これば何週間も、手術をしたような場合には何か月間も、床上安静を強いられます。そうなりますと、いざ立って歩くことが許可されてもすぐには歩けません。時には何ヵ月ものリハビリテーションを必要とします。転ばないためにも、動作はゆっくりとし、手を伸ばさなければ届かないようなところにつかまろうとしないでください。パーキンソン病の方は、歩いていって座る時などに、物につかまろうとして手を伸ばしたが届かずに転ぶことが、非常に多いのです。すぐ脇にある手すりや柱、または動かない頑丈な家具以外にはつかまらないようにして下さい。
岩田 誠