パーキンソン病治療開始時の薬剤選択

パーキンソン病の治療計画は、パーキンソン病の症状の強さによって変わります。この症状の強さを定めているのが、ホーン・ヤール(H-Y)重症度分類です。

症状の軽い方から始まって、H-Y 1度からH-Y 5度までに分類されます。H-Y 1度というのは、片側の手に震えがある程度で日常生活には支障がない状態です。H-Y 2度は、両側の手の振戦や手の動作、あるいは歩行に異常が出現し、日常生活で多少の不自由を感じる状態です。H-Y 3度では、はっきりした歩行障害があり、突進現象が出現して、日常生活がかなりしにくくなった状態です。H-Y 4度は、起ち上ったり歩いたりするのに介助を要し、支えがないと立っていられない様な状態、そしてH-Y 5度は、寝たきり状態です。

H-Y 1度の状態で来られた患者さんでは、セレギリンだけで治療を開始します。そして2度になってきたなら、これにドパミン作動薬かレボドパを加えます。最初からH-Y 2度から3度で来られた患者さんでは、ドパミン作動薬かレボドパで治療を開始します。一般に、65歳以上の高齢者ではレボドパから、これより若い方ではドパミン作動薬から始めます。日常動作の障害が進行してきたら、それぞれのお薬の量を増やしたり、レボドパとドパミン作動薬を併用したり、あるいはゾニサミドを加えたりします。

3年以上の長期間にわたってレボドパ治療を続けていると、時に副作用が出てくることがあります。その一つはジスキネジアといって、動かそうとしていないのに、手足や首、胴体、あるいは顔面部がくねくねと自然に動いてしまう現象で、これは線条体でのドパミン作用が過剰になったための現象ですから、多くの場合は、お薬の効果が充分に現れている時に生じます。この状態を続けると、お薬の効果時間が短くなってしまったり、効果が少なくなったりする可能性がありますので、お薬を減らす必要があります。減らして動きが悪くなった時は、アマンタジンを加えます。

これに対して、オフ状態といって、パーキンソン症状が突如として強く現れることがありますが、これはドパミン作用が切れて生じる現象で、レボドパの効果が減少した時に生じます。レボドパの服用量が多すぎる状態が長期間続くと、内服してから短時間で、オフ状態が生じるようになりやすいので、レボドパの使用量は必要最小量にしておくことが大切です。振戦は日常生活動作を妨げるものではありませんので、振戦をゼロにすることは治療目標にしないで下さい。振戦が残っているということは、お薬が過量になっていないことを示す安全弁と思って下さい。

岩田 誠