今日のパーキンソン病治療の主流は、脳内で不足しているドパミンの働きを補填する治療ですが、これには大きく分けて2つの方法があります。
その第一は、レボドパ(エルドーパとも言います)治療です。脳内で不足しているドパミンは、内服しても、注射しても脳内には入っていきません。そこでしかし、ドパミンの原料として体内で使われているレボドパを内服してもらいますと、レボドパは脳内に運ばれてドパミンになり、不足していた線条体のドパミン欠乏状態を、解決してくれるのです。日本でレボドパ治療が始まったのは、私が神経内科医として本格的に働き始めた1970年頃からでした。その後、レボドパの副作用を抑え、かつ効果的に脳内に取り込まれるようにするための工夫がなされ、レボドパに別の物質を添加した合剤は使われるようになって、安全で効果的な治療が行われるようになりました。今日では、このレボドパ合剤に、エンタカポンというもう一つ別の物質を加えて、レボドパの効果時間を増大させるような製剤も使われるようになっています。
もう一つの治療薬は、脳内に入ってドパミンと同じ働きをする、ドパミン作動薬というグループの治療薬です。ドパミンとは違って、ドパミン作動薬は、内服すると脳内に入り、ドパミン不足にある線条体に働いて、症状に対して効果を示します。今日では、1日1回の錠剤の内服、あるいはパッチの貼付、という形での効果が長時間続くタイプのドパミン作動薬が広く使用されています。
この他に、黒質の神経細胞から線条体へのドパミンの供給を助けるアマンタジンやゾニサミド(トレリーフ®)も、よく使われる薬剤です。
レボドパが世に出る前までは、唯一のパーキンソン病治療薬であった抗コリン薬は、線条体でドパミンと反対の働きをするアセチルコリンという物質の働きを打ち消して、ドパミン不足を間接的に補う薬物ですが、高齢者では副作用が出やすいので、今日ではあまり使われなくなりました。
脳内で使われたドパミンは、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)という酵素で分解されますが、この酵素の働きを抑えるセレギリンという薬は、後に詳しくご紹介するような理由から、欧米ではパーキンソン病の進行を遅らせる目的で、パーキンソン病の診断がついた初期から開始されるお薬ですが、ドパミンの分解を抑える作用がありますので、日本では長いこと、レボドパの効果時間が短くなったり、効果が弱くなったりした時にしか健康保険での使用が認められてきませんでした。最近では、病初期からのセレギリンの単独使用が認められてきましたので、欧米と同様の使用法が広まりつつあります。
この他に、レボドパの効果時間が短くなった時に使用する薬剤として、イストラデフィリン(ノウリアスト®)も最近使われ始めました。
岩田 誠