慢性連日性頭痛の原因は、薬剤乱用頭痛だけではありません。デスクワーク、特にコンピュータ作業をする人たちで多いのは、頚性神経筋症候群と呼ばれるものです。私の親しい友人で脳神経外科医の松井孝嘉先生は、後頚部の筋肉の過度の緊張が長時間続くと、緊張型頭痛や頚部痛に加えて、フラフラするような浮動感を伴う平衡機能障害や、様々な自律神経障害に加えてうつ症状までが出現してくる事を見つけて、これらを生じる状態を、頚性神経筋症候群と呼ぶ事を提唱しました。一般的に言われている緊張型頭痛の中には、頚性神経筋症候群で生じる頭痛が含まれています。長時間のコンピュータ作業では、上半身が前屈みになり、下顎が挙がった姿勢になり易いのですが、この様な姿勢をとると、後頚部の筋肉の過度な収縮が生じます。この様な姿勢を長時間にわたって続けますと、後頚部の筋肉は容易には緩まなくなり、緊張状態が続くようになります。その結果生じてくるのが、頚性神経筋症候群です。また、片頭痛のある方に頚性神経筋症候群が加わりますと、片頭痛発作が頻繁に起こる様になり、片頭痛と頚性神経筋症候群とが合わさった形での慢性連日性頭痛が生じます。
頚性神経筋症候群においては、その発生予防が最も重要です。コンピュータ作業を行うにあたっては、キーボードの位置や、画面の高さや角度などを調整して、胸をはり、顎をひいた姿勢を保ったまま作業ができる様にし、また、少なくとも30分に1回ほどは作業を中断して休憩を入れ、姿勢を正してから作業を再開する様にして下さい。また、休憩中には肩から腕をゆっくりと大きく回したり、深呼吸をしたりして、リラックスして下さい。
頚性神経筋症候群により、高度の頭痛や頚部痛に加えて平衡機能障害が生じた様な場合には、低周波電気刺激治療や鍼治療を必要とする事もありますし、悪心嘔吐や血圧変動などの自律神経症状が生じる様な場合には、入院安静を必要とすることもあります。
岩田 誠