脳は痛みを感じない

頭痛を感じているのは脳ですが、脳が痛むと言うことはありません。
頭の皮膚やその直下にある筋肉や腱、あるいは頭蓋骨の表面を覆っている骨膜などは、痛みを感じますし、頭蓋骨の内側にあって脳を包んでいる厚い膜(硬膜)も、痛みを感じる組織です。
硬膜の内側には、もう一つくも膜という薄くて頑丈な膜があって、その膜の下には脳を養う動脈が沢山走っていますが、これらの動脈のうち脳の下側にある太い動脈の壁は痛みに対して敏感です。
これに反して、脳の実質は痛みを全く感じることがありません。
ですから、脳神経外科のお医者さんは、局所麻酔薬を使って皮膚から硬膜までの脳の外側を包んでいる組織を麻酔すれば、全身麻酔のように脳の組織を麻酔してしまうことなく、脳の手術を行うことが出来ます。
つまり、頭痛という症状は、脳そのものの破壊で起こることはないのです。
脳腫瘍やくも膜下出血など、脳を壊す重大な病気が頭痛を起こすことは事実ですが、これは脳が壊されたから痛むのではなく、腫瘍が大きくなって腫れてくるために脳を包んでいる膜が引っ張られたり、もれ出てきた血液で脳の動脈の壁が刺激されたりして痛みを感じているのです。
さて、皮膚、筋肉、腱、骨膜、硬膜、脳動脈のどれからであれ、頭の領域で感じられる痛みの感覚は、全て三叉神経という神経によって感じとられ、脳に運ばれます。
脳の中に伝えられた三叉神経からの痛みの情報は、いったん脳から脊髄にまで下がってから、大脳に伝えられます。
大脳に伝えられて初めて、ヒトは痛みの感覚を自覚するのですが、硬膜や脳動脈に由来する痛みの感覚情報は、痛みを自覚することはできても、体のどこから来た痛みであるかを判別することが困難です。
ですから、例えば、大脳の真下にある硬膜が刺激されると目の後ろが痛んだり、脳の下のほうを養っている動脈の壁が裂けたりすると、後頭部に痛みを感じたりということが起こります。
また、三叉神経はいったん脊髄にまで降りていきますから、頭の中の異常が、首の痛みとして感じられることも少なくありません。
すなわち、頭痛という症状に関しては、痛いと感じる場所に痛みの原因があるとは限らないのです。

岩田 誠