立ったり歩いたりしたときに、不安定でふらつく方は、ご自分の症状をよく「めまい」と表現されます。
お話を伺うと、不安定でフラフラすると言われますので、このような「めまい」をフラフラ「めまい」と呼ぶことにしましょう。
このような訴えが出やすいものの一つに、小脳の病気があります。
小脳の病気のうち、病気が急に始まる小脳梗塞や小脳出血では、グルグル回る回転性めまいが生じることが多いのですが、脊髄小脳変性症や小脳萎縮症といった徐々に進行する病気では、回転性めまいが生じることは殆どなく、起立や歩行の不安定、ここでいうフラフラ「めまい」を生じるのが普通です。
それと一緒に、言葉がもつれて呂律が回らないといった症状が見られます。
歩くとふらつき、呂律が回らないという状態は、お酒に酔った状態によく似ています。
脊髄小脳変性症や小脳萎縮症というのは、単一の病気の名前ではなく、同じような病変を生じてくる多くの病気の総称で、その中には何十種類もの異なった病気が含まれています。
中でも多いのは、何種類かの遺伝性脊髄小脳変性症と、非遺伝性の多系統萎縮症という病気です。
フラフラ「めまい」の原因として多いものに、感覚性失調症という病態があります。
私たちの足の裏の皮膚の中や足の骨の表面、足の骨の関節には圧力を感じとる感覚器があり、これが足裏の様々な場所にかかる圧力の変化を刻々と脊髄、次いで脳に送り込んでいます。
このような圧力変化の情報は、体の平衡を保つ上に大変重要です。
例えば、右足裏の外側と左足裏の内側にかかる圧力が増加し、右足裏の内側と左足裏の外側にかかる圧力が減少すれば、たとえ目をつぶっていたとしても体が右に傾いたことがすぐにわかりますから、意識しなくても反射的に体を左に傾けるような反射が生じ、体の傾きを立て直そうとします。
足裏にかかる圧力の感覚が失われますと、このような姿勢保持反射が起こらなくなり、体のふらつきが増大します。
このような状態が、感覚性失調症です。
感覚性失調症は、脊髄の病気でも、末梢神経の病気でも生じます。
感覚性失調症を生じる脊髄の病気として多いのは、頚椎椎間板の変性による変形性頸部脊椎症(頚椎症)で生じた脊髄の圧迫(頚椎症性脊髄症)で、末梢神経障害による感覚性失調症として多いのは、糖尿病性末梢神経障害です。どちらの場合にも、早期に適切な対策をとれば、症状を改善させることが可能です。
感覚性失調症の患者さんは、歩いている時や止まろうとした時などに、しばしばバランスを失ってトットットと、たたらを踏むようになることがありますが、この状態は、しばしばパーキンソン病患者の前方突進現象と間違えられることがあり、必要のないパーキンソン病のお薬が処方されてしまうこともあります。
適切な問診と、適切な神経内科的診察がなされれば、このような誤診を防ぐに効ありとなるだろうと思います。
岩田 誠