認知症の原因

認知症というのは病気の名前ではなく、脳の細胞が壊れていく病気のために知的能力が衰退し、家庭や社会においてそれまで果たしてきたような役割をまっとうすることが出来なくなる状態を意味する言葉です。
従ってその原因は様々で、何十種類もの病気が認知症の原因になり得ます。
認知症の原因診断は重要です。
治療法の選択や将来の予測を行うのに、原因診断を欠かすことは出来ません。
認知症という診断名を告げただけでは、真の意味での診断をしたことにはならないのです。
数多くの認知症の原因の中で、極めて多い重要な病気が4つあります。
その一つはアルツハイマー型認知症といって、脳の中にベータ・アミロイドという有害な物質が溜まってきて起こる病気です。
アルツハイマーというのは、この病気を最初に見いだしたドイツの精神科医の名前です。
ベータ・アミロイドはいわばゴミのようなタンパク質ですが、大きさの少し異なったいくつかの種類があり、その中のある種のベータ・アミロイドが沢山溜まってくると、神経細胞に対して毒性を発揮すると考えられています。
2番目に多いのはレウィ小体型認知症と言う病気で、神経細胞の中にベータ・アミロイドとは異なった別のタンパクが溜まる病気です。
このタンパク質が溜まると、神経細胞の中にタンパクの塊が見えるようになりますが、パーキンソン病の患者の脳細胞内に、この塊を始めて発見したのが、レウィというやはりドイツの学者です。
しかし、レウィ小体型認知症という病気を発見したのは、小阪憲司先生という日本の精神科医です。
小阪先生は、パーキンソン病でみられるレウィ小体という異常なタンパクが、大脳皮質の神経細胞にも溜まっていることを見つけて、これが認知所運を惹き起こす新しいタイプの病気であることを確認したのです。
脳血管型認知症も、比較的多い病気です。
多発性脳梗塞があったり、大脳白質といって、大脳の深いところの構造が、高血圧や虚血のために変性してくるために起こる認知症です。
多くの場合は、手足の麻痺や、呂律のまわりが悪い、嚥下障害や歩行障害がある、などの症状を伴っています。
前頭葉、あるいは側頭葉、あるいはその両方が、ひどく変性・萎縮する前頭側頭型認知症という一群の病気も少なくありません。
この中には、物忘れや、日付、場所の認知能力は余りおかされず、決まりきった同じパターンの行動をとったり、社会的なルールを無視するような行動異常が前面に出るような、ピック病と呼ばれるタイプ、意味性認知症といって、物の名前を言うことや、物の名前を聞いてその意味を理解することが出来なくなるタイプ、それから、進行性失語症と呼ばれる、言葉がつかえて発話困難になり、言葉の音も歪んでくるようなタイプがあります。
これらの原因疾患の診断には、症状の細かな観察と患者の呈する所見の分析が必須です。
もちろん、脳MRIや脳血流シンチなどは、認知症の原因疾患の確定に有用ではありますが、これらの検査はあくまでも補助検査であり、検査に頼りきった診断では、正しい原因診断は出来ません。

岩田 誠