むずむず脚(あし)症候群

夜になってベッドに入りいざ寝ようとすると、何となく足が落ち着かなくなってじっとしていられなくなる。
あしがムズムズしたり、ビリビリしたり、イライラしたり、たとえようもなくだるく感じたりするが、ベッドの中で足を動かしていると少し楽になる。
しかし、それも束の間、再び足のいやな感じがおそってくる。
たまらなくなってベッドから起き出し、部屋の中、いや家中を歩き回るとようやく落ち着いて、不快な感じは消えてしまう。
ああ、よかった、とベッドに入ると、再び足のいやな感じが始まる。
こんな不思議な症状があれば、むずむず脚症候群の可能性があります。
むずむず脚症候群は、神経内科領域ではかなり以前からよく知られた病気なのですが、どういう訳か日本では認知度が低く、見逃されていることが多い病気です。
患者さんのお話をしっかり伺えば、それだけで容易に診断ができる病気ですが、脳や脊髄の画像検査をしたり、脳波を調べたりしても、普通は何の異常もありませんし、診察でもこの病気に特徴的な異常といったものはありません。
むずむず脚症候群では、はっきりした原因の見つかるものと、そうではないものがあります。
はっきりした原因が見つかるものとしては、鉄欠乏性貧血や人工透析、抗精神病薬の使用などがあります。
このような場合には、原因が取り除かれれば症状は消えるのが普通です。
また、パーキンソン病と合併していることもあります。
しかし、このような原因が全く見あたらないこともあり、その場合は遺伝的素因によると考えられています。
原因が何であれ、むずむず脚症候群では、脊髄においてドパミンという物質の働きが弱くなっていることがわかっています。
そこで、原因を取り去ることのできない場合には、治療として脊髄内のドパミンの作用を強めるお薬が使われます。
これらは全て、パーキンソン病の治療薬ですが、パーキンソン病で使用するよりはずっと少ない量で効果があるのが普通です。
昔はレボドパ製剤が使われましたが、最近では、レボドパより効果が長く続くドパミン作動薬、例えばプラミペキソール(市販名:ビ・シフロール)やロピニロール(市販名:レキップ)といったお薬が使われることが多くなっています。
ただし、むずむず脚症候群とパーキンソン病とは異なった病気ですから、パーキンソン病のお薬を飲んでいるからと言って、将来パーキンソン病になるというわけではありません。
むずむず脚症候群の原語名は、Restless leg syndromeです。
Restlessとは落ち着かないという意味で、“むずむず”と言うような意味は全くありません。
かつては原語名を直訳した“不穏な脚症候群”という名前が使われていましたが、“不穏”という言葉はあまり適切ではないということで、むずむず脚症候群という名前が使われるようになりました。しかし、患者さんの自覚症状は、必ずしも“むずむず”という感覚ではありませんから、むずむず脚症候群という診断名を申し上げると、私の場合は“むずむず”するわけではないから違います、と言われてしまうことがあり、これも適切な病名ではないようです。そこで、最近では“レストレス・レッグ症候群”と、原語をそのまま使うことも多くなってきました。
似たようなものに、“アカシジア”という全く別の状態があります。
これはうつ状態の患者さんが抗うつ薬を飲み始めたときなどによく見られる症状で、やはり落ち着いていられず、絶えずそわそわと動き回ったりする状態ですが、むずむず脚症候群と違って、特に夜寝るときに強く表れるわけではありませんし、脚の不快感を自覚する訳でもありません。
一日中同じように全身的に落ち着きがないという点で、むずむず脚症候群とは区別できます。
むずむず脚症候群には、時々周期性四肢運動障害という別の状態が加わっていることがあります。
これは寝入ってから、手足を大きくバタンバタンと動かすもので、寝ている間に起こりますから、本人には気づかれていないことが多い現象です。
この現象も、脊髄のドパミンの作用が低下して生じるものなので、むずむず脚症候群と同じ治療で止めることができます。
むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害が疑われる方がおられましたら、是非、神経内科専門医の診察を受けて下さい。
長い間の悩みが解決するかもしれません。

岩田 誠