何かをしている時、急に片方の手がビリビリしびれてきたり、片方の手指がうまく動かなくなったり、会話中に突然呂律が回らなくなったり、あるいは急に片方の目がかすんで見えなくなったり、しかし数分もすると全く何も起こらなかったかのようにすっかり元に戻ってしまう。
こんなことがあったら、一過性脳虚血発作の疑いがあります。
一過性脳虚血発作の原因として最も多いのは、脳動脈硬化です。
頸動脈といって、首の両脇を触れるとドキンドキン拍動している動脈は、下あごの奥のあたりで脳に行く動脈と顔にいく動脈とに分かれますが、この二つに分かれた直後の脳に行く動脈(内頸動脈と呼ばれます)は、最も動脈硬化を起こしやすい動脈です。
ここに動脈硬化が起こりますと、その場所に血小板が貼り付きやすくなります。
血小板というのは、血液の中を流れている、赤血球よりももっと小さな細胞成分で、血管に破れ目ができた時、そこにセロテープの切れ端のようにペタペタ貼り付いて、破れ目からの出血を防ぐ役割を担っています。
動脈硬化があると、その血管の内面の性質が、丁度血管が破れた時のように変わりますので、血小板は慌ててそこに貼り付きます。
すると、そこに血小板の塊、すなわち血栓ができてしまいます。
血小板の塊は白い色をしていますので、白色血栓と呼ばれます。
この白色血栓は大変もろく、ちぎれやすいので、その切れ端が血流に乗って脳の方に流れていき、細い動脈に詰まってしまいますと、その場所の血流が途絶え、神経細胞の働きが停止してその営んでいた機能が失われます。
もし詰まった状態がそのまま3分以上続けば、その先の神経細胞は死滅してしまい、脳梗塞になります。
しかし、小さな白色血栓はすぐに溶けてしまいますので、多くの場合神経細胞が死滅することはなく、機能は元に戻ります。
これが一過性虚血発作の本態です。
このように、一過性虚血発作は脳の小さな部位の機能が一時的に低下するものですから、失神発作のように意識が失われることはありませんし、てんかんのようにけいれんを生じるものも含みません。
しかし、手が麻痺にまでは至らず震えるだけだったりすることはあります。
また、一過性虚血発作でぐるぐる回るめまいを生じることもありますが、この場合には呂律が乱れるとか、ものが二つにダブって見える複視などが一緒に生じます。
めまいだけしかない場合には、一過性脳虚血発作ではありません。
動脈硬化以外の脳動脈の病気が、一過性脳虚血発作を起こすこともあります。
50歳未満の若い方に起こった一過性脳虚血発作では、脳動静脈奇形や、もやもや病、あるいは大動脈炎症候群といった病気が原因になっていることがあります。
いずれにせよ、一過性脳虚血発作の原因のほとんどは脳を養う動脈の病気なので、その検査を行う必要があります。
頸動脈の動脈硬化の程度や、そこに血栓があるかどうかを調べるには、頸動脈エコー検査が、もっとも安全かつ有効です。
また、今ではMRAといって、血管だけをみる検査が簡単にできるようになりましたので、頭部あるいは頸部のMRAを行ってみるのも一つの方法です。
岩田 誠