片頭痛患者の才能

片頭痛患者さんの中には、天才的な才能に恵まれた人物が沢山います。
アメリカの大統領の中には、有名な片頭痛患者さんが居ます。
第3代大統領で、アメリカ合衆国独立宣言の起草者であるトマス・ジェファソンは、片頭痛もちでしたし、南北戦争時の北軍の司令官で、後に大統領になったユリシーズ・グラント将軍も片頭痛患者でした。
南北戦争の終結を迎え、南軍のロバート・リー将軍が、グラント将軍の下に白旗を掲げて降伏してきた時、グラント将軍は丁度片頭痛発作の真っ最中で、一刻も早く横になって休みたかったのだそうです。
このため、南軍降伏の細々した条件は一切議論されず、南軍にとっては幸いであったと言われています。
片頭痛患者が活躍するのは、芸術の分野です。
ピアノの詩人ショパンは少年期からひどい発作に苦しんでいました。
彼のピアノ・ソナタ第2番の4つの楽章は、片頭痛発作の経過を描いたものではないかと、私は思っています。
作家にも、片頭痛患者は沢山居ます。
トルストイも、ヴァージニア・ウルフも、そして「不思議な国のアリス」を書いたルイス・キャロルも、片頭痛発作に苦しんだ人たちでした。
日本人の片頭痛作家で有名なのは、樋口一葉と芥川龍之介です。
一葉は日記の中で、自分の片頭痛発作のことを実に正確に記録しています。
それによると、5年間に21回、すなわち平均して年4回ほどのひどい頭痛発作で寝込んだことが書かれています。
日記によれば、彼女のお母さんも、片頭痛発作を持っていたようです。
芥川の最後の小説「歯車」では、彼自身の片頭痛発作の視覚前兆、すなわち閃輝暗点の時間経過が、極めて正確に記述されています。
閃輝暗点をこれほどまでに科学的に記述した文学作品はありません。
このような詳細な記述は、自分に起こった出来事でなければ書くことは出来ないでしょう。
このことから、彼は片頭痛患者であったということがすぐに判るのです。
それではなぜ、片頭痛患者にはこれほどまでに才能優れた人が多いでしょうか。
その一つの理由は、様々な感覚において、その感受性が高いことが挙げられます。
片頭痛発作時には、光が普通異常に眩しく感じられたり、音が異常にうるさく感じられたり、あるいは匂いに敏感になったりすることがよく知られていますが、片頭痛患者では、発作を生じていない普通のときでも、様々な感覚に対する感受性が一般の人々より高く、非常に敏感であることが知られています。
すなわち、このような感覚の鋭さは、片頭痛患者の才能の一部であろうと考えられているのです。

岩田 誠