パーキンソン病治療の目的は、病気を治すことではなく、病気があっても不自由なく日常生活を営むことが出来るようにすることです。この点から言えば、高血圧や糖尿病などの治療方針とよく似ています。これらの病気と同じように、パーキンソン病の治療は、原則として一生を通じて続けられなければなりませんので、少なくとも数十年先までを見込んだ治療計画が必要です。このため、最初は必要最小限の治療薬を用い、年月を経るのにあわせて、お薬の量や種類を増やしたり、変えたりしていきます。この時、同じパーキンソン病であるからといって、画一的な治療方針を立てるのではなく、症状や、その進行速度、生活様式、他の合併症などの存在を考慮して、患者さんお一人お一人に最適な治療法を選択していかなければなりません。また、診察室で拝見する時と、ご自宅で生活しておられる時とでは、症状に大きな違いがあることも少なくありません。ですから、ご家庭での日常生活の状態を、細かく説明頂く必要があります。
レボドパの内服治療を3年以上の長期にわたって続けますと、しばしば効果時間が短くなり、効果が突然切れて動けなくなるオフ現象が出現してくることがあります。これを予防するには、必要最小限のレボドパしか使わないようにすることです。しかし、それでもオフ現象が出現してきた場合には、レボドパ製剤を、長時間効果の持続するレボドパ製剤であるスタレボ®錠に替えたり、内服の回数を増やしたりします。また、長時間にわたって治療効果が持続するドパミン作動薬や、ゾニサミド、イストラデフィリン、あるいはセレギリンを加えることもあります。
レボドパは、食前内服と食後内服とでは、効き方が違うことが多いのですが、これはレボドパが腸から吸収される時に、アミノ酸との吸収競合を生じるからです。食前に服用しますと、レボドパだけが腸に入りますので吸収が早くなりますが、時にその効果の持続が短くなることがあります。これに対して、食後に内服しますと、既に食事で摂ったタンパク質がアミノ酸に分解されて腸からの吸収が始まっていますので、吸収競合が起こり、後からやって来たレボドパの吸収が遅くなってしまいます。ですから、効果が表れるのは遅れますが、しばしば効果時間は食前内服より長くなります。レボドパは、酸性でないと溶けにくいので、胃酸が充分に出ている空腹時の内服は、それだけでもレボドパの吸収を早めます。これに対し、逆流性食道炎などで胃酸分泌を抑える薬を使いますと、レボドパの効果は激減してしまいます。このようなことがありますので、レボドパの服用法については、主治医とよく相談して頂きたいと思います。
岩田 誠